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七夕のお供え物(索餅)

 
 七夕の習俗が我が国で、どのように変貌したのか、時代と地域による姿の違いをどのように読み取るのか、そして現在に残された「七夕まつり」をどのように楽しめるのか。
 平安時代の故事だけが、この楽しみ方を伝えるものではない。
 だが、「索餅(さくべい)」は、日本文化の根底にある「粒食としての米」と、外来のものとされた「粉食としての小麦」の歴史を見る格好の題材である。

 まず、「索餅」とは何か。
 平安時代の儀式書『延喜式』第三十三・大膳職には、「索餅」の素材が載せられていて次のように記されている。
 ①『造雑物法索餅料』として、材料「小麦粉一石五斗、米粉六斗、塩五升」で六百七十   五藁を得る。
 ②『手束索餅亦同』として、材料「糖料、糯米一石、萌小麦二斗」で三斗七升を得る。
 調理方法は記されていないから、どのようなものができあがったのかは推測する以外にない。 ただ、前者は「藁」単位であることから、小分けして乾燥されたと思われ、後者は糖料と萌小麦(小麦麹だろうか)を使って発酵させたものと推測される。

「索餅(さくべい)」は、料理研究家のあいだでは、現在の「素麺」や「うどん」の原型であるとされている。
 しかし、 岡田哲編『たべもの起源事典』によると、米粉を三割近くも含むと生地が切れやすくなり、細く伸ばして縒り合わせることが可能だったのか疑問視している。また、食べるときには、蒸したり茹でたりして醤や味醤、酢などを付けたのではないかという。 近年、①の材料を使って、食品加工技術者の応援を受けながら「索麺」つくりに挑戦した麺職人がいて、岡田説が正しいことを証明した。
 延喜式の「索餅」から現在の「索麺・うどん」までの変遷をたどるだけでも一冊の本になる。しかも、いろいろな説があり、断片的な文献が古代から見られ、江戸期の文献を含めれば、文献だけでも大作の「索餅事典」になる。
 すでに、この系列を研究した書が多数出ている。

 日本麺類業団体連合会『麺類雑学辞典』から引用する。
 【索麺は、室町時代では、茄でて洗ってから蒸して温める食べ方が主流で、「蒸麦」や「熱蒸」とも呼ばれた。この時代の文献には、「梶の葉に盛った索麺は七夕の風流」という文章も残されている。
 江戸時代には、七夕にそうめんを供え物とする習俗が広まっていった。これは、細く長いそうめんを糸に見立てて裁縫の上達を祈願したものである。】

 南北朝時代の書である『祇園執行日記』の康永2年(1243)7月7日の条に、同じ食品(麺類)を指して索餅、索麺、素麺と三通りの記述があり、神前に供えられた。

 「索餅」が「索麺」となり、七夕に結びついた経緯はおおよそ以上である。
 、
 「索餅」から「素麺」への道は、「小麦粉」へのこだわりの道とすれば、「菓子」への道は、「米粉」にこだわった変身の道である。

 京都:亀末廣の「索餅(求肥)」はこの系譜を継いでいるのであろうか。
 延喜式の②の方法が源流とも考えられるのだが、その過程をたどる資料はない。

 しかし、「菓子」としての「索餅」には、粉を練って油で揚げた「唐菓子」の一つという伝承があり、神餞として、また仏前にも供えられた。
 『倭名類聚抄』に「八種唐菓子」として載せられている。
 鎌倉時代のものとされる料理書『厨事類記』に、その作り方が書かれている。。
 【粘り気の少ない米(うるち米)を精米して、粉にしてふるう。
  水を加えて少し練る。(しとぎに近い状態)
  湯を沸かし、生地を湯に浮くまでゆで、臼にいれてつく。
  臼から取り出す際は濡らした布につつみ、布の端をあげてまとめ、冷めないうちに少  しづつ造形する。 最後に良質の油で揚げる。】
 要は「団子」を作り、様々に成形して油で揚げたものである。
 だが、この中には「索餅」の名は入っていない。そして鎌倉時代末期には、その多くが既に忘れ去られていた。

 江戸期になって「唐菓子図」というものが『集古集』に収録されている。
 20種の図があり、先ほどの「八種唐菓子」に12種が追加されている。
 その中に「索餅」があり、縄のように捩った棒状のものが2本ひと組になって描かれている。
 このような形で復活した経緯は、たどれないでいる。
 和菓子の老舗・虎屋の「虎屋文庫」にも問い合わせ、それなりの文献を提供してもらったが、直接的に解明するものはなかった。
 
  だが、揚げた「索餅」は、今では京都の幾つかの寺で、お茶請けの一つとして提供している。 
 様々検索してる時に『 めんと和菓子の夜明けー索餅の謎を解く』(松本忠久著)に出会った。 まだ読んではいない。
 
 
 
めんと和菓子の夜明け―索餅の謎を解く

めんと和菓子の夜明け―索餅の謎を解く

  • 作者: 松本 忠久
  • 出版社/メーカー: 丸善プラネット
  • 発売日: 2011/10
  • メディア: 単行本
 

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