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仮名を振る


 漢字には「音読み」と「訓読み」があり、同じ文字が多様に発音される。
 また、「同じ発音」でも、多様に表記される。
 例えば「日」である。音読みでは「ひ」、訓読みでは「にち」なのだが、他の文字と組み合わされると、読み方が変わる。「三日(みっか)」「三日月(みかずき)」「日本(にほん・にっぽん)「今日(きょう)」「当日(とうじつ)」などがある。
 「ひ」と発音した場合、「日」「火」「碑」「費」「非」「比」「秘」「灯」など数多くの文字が出てくる。
 「檜」と書かれた場合、「ひ」と読むのか「ひのき」と読むのか迷う場合がある。
 木材を指す時には「ひのき」だが、氏名の「檜山」は「ひやま」と「ひ」で読む。
 
 この混乱を避けるために「仮名を振る」ことがある。
 その発生は、江戸期になって出版が盛んになると、読者層の広がりから、漢字の識字率が低い層でも読みやすくするための補助とされたことにある。
 明治時代に入って以降、第二次世界大戦まで、全ての漢字に振り仮名が振ってあった出版物があった。「新聞」などもその一つであった。
 また、明治政府は「標準語」の策定に必死であったから、「振り仮名」によって統一しようとする政策が背景にあったのではないか。
 中には「漢語」で記しておいて、振り仮名はその意味の「和語」によってするというものもあった。
  特に、漫画や小説、歌の歌詞などでは、特殊な効果を狙って、漢字や外来語で記したものを全く別の振り仮名で読ませることもある。この流れは今も続く。
 例えば「小樽の女」の「女」を「ひと」と読ませる歌がある。
 
 今は、「仮名を振る」というより「ルビを付ける」という言葉の方が多く使われる。
 かたかなで「ルビ」と書くが、れっきとした日本語であり、「仮名を振る」という意味では「外来語」ではない。
 活版印刷が普及したのは、一文字ずつ鉛で作られた「活字」があったからである。「植字工」が一本一本活字を拾い上げて文章を組み立てた。その際に基本となった活字の大きさは「五号格」であった。それに振り仮名を付ける時に、少し小さい「七号格」の活字を用いた。そのサイズがイギリスで使われている別名「ルビー(Ruby)」と呼ばれる活字とほぼ同じであったため、印刷物の振り仮名を「ルビ」ともいうようになった。

 文字を読むために、様々な努力をしてきた歴史がある。
 「ひらがな」を読むために「絵」を使った。「絵」が「平仮名」の「ルビ」とされたのである。
 
 「絵心経」といわれる仏教の経典「摩訶般若波羅蜜多心経」は、仮名も読めない人のために、「読み方」を「絵」で現した。
 「般若心経」は「観自在菩薩 行深般若波羅蜜多時、照見五蘊皆空、度一切苦厄。舎利子。色不異空、空不異色、色即是空、空即是色。--」で始まる仏教の基本的な経典であるが、今でも玄奘三蔵訳とされる「漢訳」で読まれ、「和訳」で読経されることはない。
 その最後の部分に出てくる「羯諦羯諦(ぎゃていぎゃてい)、波羅羯諦(はらぎゃてい)、波羅僧羯諦(はらそうぎゃてい)、菩提薩婆訶(ぼじそわか)」は、漢語に訳されたものではなく、サンスクリット語の発音を漢字に置き換えたに過ぎない。
 いわゆる「表音文字」である。

 この経典を、文字が読めない人にも読んでもらおうと、苦心して作られたのが「絵心経」である。「めくら経」と言われて伝わるものだが、「めくら」という言葉が「差別用語」とされるため、今は「絵心経」と呼ばれている。
 「ひらがな」が記され、その「ひらがな」を読むために「絵」が付けられた。
 「絵」は、「ひらがな」を読むための「振り仮名・ルビ」の役目を果たしたのである。 
   
      
         絵心経03-r.jpg
 
 例えば、経典名「摩訶般若波羅蜜多心経」は、「まか」として「ご飯を炊く釜」が逆さに描かれ、「はんにゃ」は「般若の面」、「はら」は「人間の腹」が描かれている。
 これは「当て絵」であり、「絵文字」(表意文字)の分野ではない。
 主に、江戸期の「南部地方」に伝わったものという。
 
 このように、「日本語」の奥深さとしなやかさを眺めると、ついのめり込んでしまう。


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