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紅葉狩り


 「紅葉」と書いて「コウヨウ」とも「モミジ」とも読む。
 だが、これは漢字の「音読み」「訓読み」による違いではなく、文化習俗によるものである。
 「モミジ」は、植物分類では「楓(かえで)」の仲間であり、園芸趣味が旺盛だった江戸期には、「春モミジ」などの品種が珍重された。「モミジ」すなわち「秋の紅葉」ではなかった。最近になってこのような品種が復活しており、現在では、原種、園芸品種を合わせて四百種類以上になるという。
 品種としての「モミジ」が、特にその「紅葉」に優れていたため、「紅葉」の代表格とされたのであろう。それが混乱の背景にある。
 さらに、メープル(楓の英語名)などが海外から移植され、特に「黄葉(こうよう)」を中心に普及が進められている。

 
 春の「桜前線」に対して、秋には「紅葉前線」が報道される。この場合は「コウヨウ」と読むのが一般的で「モミジ」と読むには少数派のようである。
 「紅葉前線」には、「楓(かえで)」だけではなく、ブナや漆などの落葉樹が含まれ、単に「紅葉」するものだけではなく「黄葉(こうよう)」する樹木が判断の対称とされている。
 風景一帯が、「紅」や「黄」のグラデーションに包まれ、やがて茶色の「枯葉」になって落葉する、その最後の輝きには「桜」とは全く別種の感動がある。
 

 だが、芸能や和歌の世界での「紅葉」は、「コウヨウ」とは読まず「モミジ」である。 
 「奥山に 紅葉ふみわけ 鳴く鹿の 声きく時ぞ 秋はかなしき」
   古今集 猿丸太夫(さるまるだゆう) 百人一首(05)

 平維茂の鬼退治を描いた、能の演目『紅葉狩』がある。

 どちらも「モミジ」と読まなければ不正解である。

 能「紅葉狩」のあらすじ。
 秋の戸隠山が舞台。美女達が幕を張って紅葉狩に興じていところに、鹿狩に来た平維持(たいらのこれもち)一行が通り合わせた。
 馬から下りて行き過ぎようとすると、女主人から酒宴に誘われる。酌を受ける内、維持は睡魔に襲われ、美女は夢を覚ますなと怪しい言葉を残して消え失せる。
 維持の夢の中で石清水八幡の神託があり、今の女達がこの山の鬼女であることを知り、剣を抜いて待ち受けると、やがて現れたのは、身の丈一丈あまりの鬼神。
 維持は剣を振るって戦い、ついに退治してしまう。

 一山が錦のように彩られた時期は、鹿や猪などの狩りの季節でもあった。
 江戸期の美人画に、紅葉した枝を担いでいる町娘が好んで描かれている。街の中で深山を偲ぶのが風流とされたのであろうか。

 京都の仏閣の庭で、様々な「モミジ」を観賞するのとは違った趣が「紅葉狩り」にはある。


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